「35歳を過ぎたらエンジニアとして厳しいのではないか」「このまま技術職を続けていけるのだろうか」──30代半ばを迎えたエンジニアの多くが、一度はこうした不安を抱きます。周囲ではマネジメントに進む人、転職を繰り返す人、逆にスキル更新が止まり苦戦する人など、キャリアの差が目に見えて広がり始める時期でもあります。
実際、dodaの調査(2024)によると、ITエンジニアの転職成功率や年収上昇率は30代後半から二極化しやすい傾向があります。年齢そのものが問題なのではなく、「35歳以降にどんな価値を提供できるか」が問われるフェーズに入ることが、キャリアの分かれ道となっているのです。
本記事では、35歳以降も第一線で活躍し続けるエンジニアがどのようなキャリア設計をしているのか、ミドル以降に直面する現実とともに解説します。年齢に振り回されるのではなく、年齢を武器に変えるための考え方と具体的な選択肢を知ることで、これからのキャリアに明確な指針を持てるはずです。
35歳を超えたエンジニアが直面するキャリアの現実
35歳を超えると、エンジニアのキャリアは「技術が好きかどうか」ではなく、「どんな価値を組織にもたらせるか」で評価されるフェーズに入ります。これは決してネガティブな変化ではありませんが、これまでと同じ働き方・同じ価値提供のままでは、評価が伸びにくくなる現実があります。
経済産業省のIT人材調査(2024)でも、ミドル層エンジニアに対して企業が期待する役割は「実装力」から「全体最適・意思決定支援」へシフトしていることが示されています。
「35歳限界説」が語られてきた背景
エンジニアの世界で長年語られてきた「35歳限界説」は、技術職そのものの寿命というよりも、キャリア設計がアップデートされてこなかった時代背景に由来します。かつては、技術トレンドの変化が今ほど速くなく、年功序列やマネジメント偏重の評価制度が主流でした。
その結果、「35歳を過ぎたら管理職へ」という一方向のキャリアパスが半ば強制され、技術を続けたいエンジニアが行き場を失うケースが多発しました。この構造が“限界説”として語り継がれてきたのです。
実例として、Aさんは技術志向のまま35歳を迎えましたが、評価制度が管理職前提だったため正当に評価されず、転職を決断。現在は技術スペシャリスト制度のある企業で活躍しています。
- 背景KPI:評価制度が管理職偏重か
- 背景KPI:技術職のキャリアパスの有無
- 背景KPI:35歳以上エンジニアの在籍率
[出典:経済産業省 IT人材白書 2024]
ミドルエンジニア市場の最新動向
現在のエンジニア市場では、35歳以降=不利という構図は崩れつつあります。むしろ、設計力・改善力・育成力を備えたミドル層エンジニアの需要は高まっています。Indeed Japan(2025)によると、シニア・ミドル向けエンジニア求人は前年比で約20%増加しています。
特に、レガシー刷新、DX推進、プロダクト安定運用といった領域では、若手だけでは対応できず、経験値のあるエンジニアが求められています。
実例として、Bさん(38歳)は新規開発ではなく既存システムの改善・最適化を評価され、年収を維持したまま転職に成功しました。
- 市場KPI:35歳以上向け求人の増加率
- 市場KPI:求められる役割(設計・改善・育成)
- 市場KPI:即戦力ポジションの割合
[出典:Indeed Japan 2025]
企業が35歳以降のエンジニアに求める役割
35歳以降のエンジニアに企業が期待するのは、「自分が書くコード量」ではなく、「チームやプロダクト全体への影響力」です。具体的には、技術選定、設計レビュー、品質担保、若手育成といった役割が中心になります。
これは必ずしもマネジメント職に進むことを意味しません。プレイング要素を残しながら、技術的な意思決定を担う立場も、立派な第一線です。
実例として、Cさん(42歳)はアーキテクト的な立場で開発に関与し、実装量は減ったものの評価と報酬は向上しました。
- 期待KPI:技術的意思決定への関与度
- 期待KPI:チーム生産性への貢献
- 期待KPI:属人化解消・品質改善実績
[出典:McKinsey デジタル人材レポート 2024]
35歳以降も第一線で戦えるエンジニアの共通点
35歳を超えても第一線で活躍し続けるエンジニアには、いくつかの明確な共通点があります。それは「最新技術を追い続けているか」よりも、「年齢と経験をどう価値に変換しているか」という点に集約されます。若手と同じ土俵で競うのではなく、役割と価値の出し方を変えていることが特徴です。
技術力だけでは足りない理由
ミドル以降のエンジニアが直面する現実の一つが、「技術力だけでは差別化できなくなる」という点です。35歳以降になると、一定水準の技術力を持つエンジニアは市場に多く存在し、単純な実装スキルだけでは評価が伸びにくくなります。
企業が求めているのは、「なぜその技術を選ぶのか」「どんなトレードオフがあるのか」を説明し、意思決定できるエンジニアです。これは経験を積んだミドル層だからこそ発揮できる価値です。
実例として、Dさん(40歳)は若手と同じ実装量を競うのをやめ、設計レビューや技術選定に注力する役割へシフト。結果としてチーム全体の生産性向上が評価され、ポジションと年収の両方を維持しました。
- 価値KPI:技術選定・設計判断への関与度
- 価値KPI:レビュー・改善提案の実績
- 価値KPI:意思決定の再現性
[出典:McKinsey デジタル人材レポート 2024]
若手と差がつく「価値の出し方」
第一線で活躍するミドルエンジニアは、「自分がどれだけ頑張ったか」ではなく、「周囲がどれだけ楽になったか」を基準に行動しています。自分が手を動かさなくても、仕組み化や標準化によって成果を出す視点を持っています。
例えば、開発フローの改善、ドキュメント整備、技術的負債の解消などは、短期的な派手さはありませんが、長期的には大きな価値を生みます。
実例として、Eさん(37歳)はCI/CDの改善と開発ルールの整備を主導し、リリース頻度と品質を同時に向上させました。コード量では測れない価値が評価されたケースです。
- 差別化KPI:プロセス改善・仕組み化の実績
- 差別化KPI:チーム全体の生産性指標
- 差別化KPI:再発防止・標準化の数
[出典:経済産業省 DX人材調査 2024]
年齢を武器に変える思考転換
35歳以降も活躍するエンジニアは、年齢を「ハンデ」ではなく「信頼の源泉」として捉えています。経験から来る判断力やリスク察知能力は、若手には簡単に代替できません。
重要なのは、「まだ若手と同じことができるか」ではなく、「若手が安心して挑戦できる土台を作れているか」という視点です。
実例として、Fさん(45歳)は障害対応や炎上案件の初動対応を任される存在となり、「この人がいれば大丈夫」という信頼が評価につながっています。
- 思考KPI:リスク察知・未然防止の実績
- 思考KPI:周囲からの相談・依頼件数
- 思考KPI:判断スピードと安定性
[出典:LinkedIn Career Development Report 2025]
ミドル以降のキャリアパス設計の選択肢
35歳以降のエンジニアキャリアは、「一本道」ではなく複数の選択肢が存在します。重要なのは、年齢や周囲の期待に流されて選ぶのではなく、自分の強み・志向・市場価値を踏まえて戦略的に選択することです。本章では、ミドル以降に現実的な3つのキャリアパスを整理します。
スペシャリストとして生きる道
近年、多くのIT企業で「スペシャリスト職」「プリンシパルエンジニア」といった、マネジメントを前提としないキャリアパスが整備されつつあります。これは、深い技術知見や設計力を持つエンジニアの価値が再評価されている証拠です。
スペシャリストに求められるのは、特定領域における圧倒的な知見と、技術的な意思決定を担える判断力です。実装量よりも、技術選定・設計レビュー・難易度の高い課題解決が主戦場になります。
実例として、Gさん(41歳)はクラウド基盤の専門家として、複数プロダクトを横断的に支援する立場に就きました。コードを書く時間は減りましたが、影響範囲と評価は大きく広がっています。
- 専門性KPI:担当領域での代替困難性
- 専門性KPI:技術的意思決定への関与度
- 専門性KPI:横断的な支援実績
[出典:McKinsey デジタル人材レポート 2024]
マネジメントに進む場合の現実
ミドル以降の選択肢として、エンジニアリングマネージャーやプロジェクトマネージャーに進む道もあります。ただし、これは「昇格」ではなく「職種転換」に近い点を理解する必要があります。
マネジメント職では、技術力以上に、意思決定・調整・育成・評価といった業務が中心になります。人や組織に関心がないまま進むと、強いストレスを感じるケースも少なくありません。
実例として、Hさん(39歳)はプレイングマネージャーとして現場感を保ちつつ、評価・育成に時間を割くことで、チーム全体の成果を最大化しています。
- マネジメントKPI:チーム成果・定着率
- マネジメントKPI:意思決定のスピードと質
- マネジメントKPI:育成・評価の納得度
[出典:PMI グローバルPMレポート 2024]
技術×ビジネスで価値を出すポジション
近年注目されているのが、「技術×ビジネス」の橋渡し役です。プロダクトマネージャー、テックリード、技術顧問、ソリューションアーキテクトなどが代表例です。
これらのポジションでは、技術理解を前提に、事業要件・顧客価値・コスト・スピードを総合的に判断する力が求められます。ミドル以降の経験が最も活きやすい領域です。
実例として、Iさん(43歳)はPdM的な立場で技術と事業の調整を担い、「技術がわかるからこそできる判断」が高く評価されています。
- 複合価値KPI:事業成果への貢献度
- 複合価値KPI:技術と要件の翻訳力
- 複合価値KPI:関係者からの信頼度
[出典:LinkedIn Product & Tech Roles Report 2025]
35歳以降にやってはいけないキャリア選択
35歳以降のキャリアでは、「何をするか」以上に「何をしないか」が重要になります。若手の頃と同じ感覚で選択を続けると、市場価値が静かに下がっていくリスクがあります。本章では、ミドル以降のエンジニアが避けるべき代表的なキャリア選択を整理します。
市場価値を下げる危険な行動
最も危険なのは、「忙しさ」を理由にスキルや役割のアップデートを止めてしまうことです。現場が回っている限り問題が顕在化しにくいため、気づいたときには選択肢が大きく狭まっているケースも少なくありません。
特に、特定の社内システムや独自フレームワークだけに依存し続ける状態は、市場価値の観点では大きなリスクになります。
実例として、Jさん(44歳)は長年同じプロダクトを担当していましたが、転職活動時にスキルの汎用性を説明できず苦戦しました。その後、役割を広げることで再評価につなげています。
- リスクKPI:社外でも通用するスキルの有無
- リスクKPI:担当領域の固定化
- リスクKPI:学習・アウトプットの停滞
[出典:経済産業省 IT人材調査 2024]
年齢任せのポジション選びの落とし穴
「そろそろ年齢的に管理職」という理由だけでマネジメントに進むのは、ミスマッチを生みやすい選択です。人や組織に関心が持てない場合、ストレスが大きく、評価も伸びにくくなります。
マネジメントは逃げ道ではなく、適性が問われる専門職です。技術を続けたい場合は、無理に方向転換する必要はありません。
実例として、Kさん(36歳)は周囲の期待から管理職を引き受けましたが、適性のズレを感じてスペシャリスト職へ戻りました。早めの軌道修正が功を奏したケースです。
- 判断KPI:人・組織への関心度
- 判断KPI:評価・育成業務への耐性
- 判断KPI:自分の強みとの整合性
[出典:PMI キャリア調査 2024]
「現状維持」が最大のリスクになる理由
35歳以降に最も多い失敗は、「今は困っていないから大丈夫」と現状維持を選び続けてしまうことです。技術トレンドや市場ニーズは緩やかに変化するため、危機感を持ちにくいのが特徴です。
しかし、いざ環境が変わったときに備えがないと、短期間で選択肢を失う可能性があります。小さな挑戦や役割拡張を継続することが、リスク回避につながります。
実例として、Lさん(48歳)は副業や社内横断プロジェクトを通じて役割を広げ、結果的に50代でも複数の選択肢を持てています。
- 停滞KPI:新しい役割・挑戦の頻度
- 停滞KPI:社外との接点の有無
- 停滞KPI:キャリアの可視化度
[出典:LinkedIn Career Longevity Report 2025]
まとめ
35歳以降のエンジニアキャリアは、「続けられるかどうか」ではなく、「どう戦い方を変えるか」が問われるフェーズです。年齢そのものが不利になるわけではなく、求められる価値が「実装量」から「意思決定・影響力」へとシフトしていく現実を正しく理解することが重要です。
本記事で解説したように、第一線で活躍し続けるミドルエンジニアは、スペシャリスト・マネジメント・技術×ビジネスといった複数のキャリアパスを理解したうえで、自分の強みを活かせる領域を戦略的に選択しています。一方で、現状維持や年齢任せのポジション選びは、市場価値を下げる大きなリスクになり得ます。
35歳以降は「遅い」のではなく、「設計し直せる最後のタイミング」とも言えます。経験を棚卸しし、これからどの価値で勝ち続けるのかを言語化することが、40代・50代まで続く安定したエンジニアキャリアにつながります。
明日からできる3アクション
- ① 自分がこれまで担ってきた「技術以外の価値(設計・改善・育成)」を書き出す
- ② 35歳以上のエンジニアが活躍している企業・職種を調査する
- ③ 転職エージェントに「ミドル以降のキャリア前提」で相談する
この3つを実行することで、年齢に振り回されないキャリア設計の第一歩を踏み出せます。焦る必要はありませんが、立ち止まらずに設計し続けることが、長く第一線で戦うための鍵です。

